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きもの自在:鶴見和子・話し手/藤本和子・聞き手

4.0
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『きもの自在』は鶴見和子さんの着物との付き合い方を活写した着物の対談集です。

話し手の鶴見和子さんにたいして藤本和子さんが聞き手となって話が進みます。

年齢を重ねることは、衣食住の生活の隅々に人々との出会いの物語が豊富に重なっていくことです。鶴見さんは藤本さんとの対談をつうじて、着物の暮らしのなかで人との出会いの物語を語ります。

戦後いちはやく着物の実用性を回復しようとニュー・キモノを提案した大塚末子さんも登場。

『きもの自在』の構成

本書は4章からできています。

  • 第1章 きものは魂のよりどころ
  • 第2章 きものは出会い
  • 第3章 きものを商う人・つくる人
  • 第4章 きもの自在

第1章は1990年7月に、装道きもの学院の研修会での話をもとにしてあらたに書きおろしたものです。

第2章は鶴見さんの自宅で自身が話し、藤本さんがまとめたものです。

第3章は増多屋の梅田善男氏とのインタビュー。

藤本さんも参加され、別のインタビューでは大塚末子さん、駒田佐久子さんを相手に行なわれたものです。藤本さんがアメリカに帰ったとのことで、鶴見さんがインタビューワーを務めています。

第4章は鶴見さんと藤本さんの対談。

アメリカ暮らしで洋服に慣れている藤本さんと着物の多様性を発揮させようとする鶴見さんの対照的なスタンスの違いが躍動感をもって語られています。

布と人と、出会いさまざま。鶴見和子『きもの自在』聞き手・藤本和子、晶文社、1993年、66・67頁。

本書の面白い所

最近の成人式はダサくて野暮ったい

鶴見さんの鋭い点は着物を生活に根ざすように考えている点です。

鋭い点といっても1世紀ほど前には当然だったことです。

20世紀和服(現代和服)がたどった歴史はかなり無残でした。ルールを作りつぎたからです。

日本人の和服業者や呉服屋が複雑なルールを作って着装まで専門化させてしまいました(着付け)。こんな閉塞的な業界を背景に日本の呉服業界・キモノ業界は自滅。

既婚者が振袖を着てはいけないとか、成人式には華やかな着物が良いとか、あれこれとルールが多いと藤本さんが指摘。

鶴見さんはそれを受けて、若い人には地味な藍微塵(あいみじん)や大島のようなものが良くて、若さが映えて綺麗に見えると答えています。

成人式に見かける女性は華やかすぎるとの藤本さんの指摘には、かえって野暮ったいとか裾がスカートみたいに広がり見っともないとか、鶴見さんは断言しています。

着物のルーツは中国・朝鮮に留まらない

次に面白い点は着物のルーツ。

着物のルーツは中国と朝鮮だと前提したうえで、文様には、菱・亀甲・屋羽根形などの幾何学的模様や動植物をかたどったものがあったり、孔雀、虎、駱駝、麒麟、鳳凰、花喰鳥(はなくいどり)、迦陵頻伽(かりょうびんが)などの想像上の動物があったりで面白いと熱弁。

こちらの想像が掻き立てられます。

着物のさまざまな文様のうち、古代オリエントからはシルクロードを経由して、イスパニアやポルトガルからは海を経由して日本へやってきたものもあると展望します。

視野の広さ

鶴見和子さんの視野の広さを聞き手の藤本和子さんは次のようにまとめます。

模様だけでなく、直線裁ちという着本の手法もアジアの衣の伝統からきている「渡りもの」だったことになりますね。きものを、日本にだけ独特のものではない、アジアの衣の一部、アジアの衣の伝統の一変種として考えていくと、視界がとてもひろがって楽しくなります。鶴見和子『きもの自在』聞き手・藤本和子、晶文社、1993年、130頁

これにたいして鶴見さんは、現代の呉服業界もみすえてキモノの不幸を次のように語ります。

長い歴史のなかで、きものは人類の遺産を吸収してきたのです。ところがいま、すっかり型にはまってしまった。鶴見和子『きもの自在』聞き手・藤本和子、晶文社、1993年、130・131頁

さらに、着物がワンピースになっていることすらこだわる必要はなく、前近代のツーピースの着物やミニスカートのような丈の短い着物も再認識されてよいと強調します。

全体的な感想

21世紀にもなって着物にこだわる必要はないと思いながら読み進めましたが、この本が出版されたのは1993年。

日本文化がすっかり形骸化して観光向けになりさがった時代に出版されたものです。

着物の歴史をふまえて、着物の多様性を知っている最後の世代が鶴見さんたちであって、分かりやすく柔軟な着物活用法を描ける最後の時代の本だと思いました。

鶴見和子さんの「自由=自律」論

150頁で繰り広げられている「自由=自律」論も鶴見さんの丁寧な生活スタイルを感じさせるものです。

鶴見さんは着物に慣れた人生を送ってきたから、自律的に行動するには洋服よりも着物を着る方が相応しいと述べています。

聞き手の藤本さんの「洋服を着ていてもおなじことがいえませんか」(同書150頁)という突っ込みに、鶴見さんは世代の問題だと約言します。どちらも的確で楽しいです。

自律的に自由に生活するために相応しい衣服。

これを洋服に感じる方と、和服に感じる鶴見さんとは同じだということです。

洋服か和服かではなく、何をするときに自分にとって洋服がいいのか和服がいいのか、そういう風に着ることを楽しむべきだと思いました。

だって、発展途上国だった国が西洋化したのが近代日本ですから、どちらかだけに絞る必要はありません。

最後に

この本は鶴見和子さんの戦後の人生も詳しく書いています。

また、どんな和服や洋服を着ていたかを詳しく書きとめているので、共有できる思い出が多いのではないでしょうか。

これほど楽しい着物ライフの本に初めて出会いました。

奥付情報(著書刊行時のもの)

著者:鶴見和子(つるみ・かずこ)

1918年東京生まれ。津田英学塾卒業後、 プリンストン大学で博士号を取得。現在、上代目智大学名誉教授。 国際的視野にもとづいた優れた柳田国男、 南方熊楠研究で知られる。著書 – 「南方熊楠」(講談社学術文庫、毎日出版文化賞)『南方曼陀羅論』(八坂書房)『内発的発展論』(共著、東京大学出版会、NIRA政策研究・東畑記念賞)「暮らしの流儀」(はる書房)『コレクション鶴見和子曼荼羅』(藤原書店)『着物』(編著、作品社)ほか。

聞き手:藤本和子(ふじもと・かずこ)

1939年東京生まれ。早稲田大学卒業。アメリカ黒人女性作家選集の編集、広く聞書きや翻訳の仕事に携わる。米国イリノイ州在住。著書『砂漠の教室』(河出書房新社)『塩を食う女たち』『ペルーからきた私の娘」(以上晶文社)『リチャード・ ブローティガン」(新潮社)訳書―ブローティガン『アメリカの鱒釣り』(晶文社)、ディモント「ユダヤ人」、 モリスン「誘惑者の島」(以上朝日新聞社)ほか。

お話をうかがった方々

梅田善男(うめだ・よしお)

1930年東京生まれ。銀座「増多屋」代目主人。東京大学卒業。会社勤めののち、1967年に家業の呉服店を継ぎ、現在にいたる。

大塚末子(おおつか・すえこ)

1902年福井県敦賀市生まれ。服飾研究家。大塚末子きもの学院院長。上っ張りともんぺの二部式のきもの、縫目なしの赤ちゃんのきもの、寝たきり老人や病人のきものなど、和服の合理的な改革をつぎつぎに提案・実用化をはかる。著書―『新しい和裁』(同文書院)『大塚末子の新・ふだん着』『新きものの作り方全書』(以上文化出版局)ほか。

駒田佐久子(こまだ・さくこ)

1948年鎌倉生まれ。ふだん着の木綿のきものを追求する染色家。国学院大学、女子美術大学卒業。国展新人賞、日本民藝館展奨励賞を受賞。

おすすめ本(読みごたえ重視ランキング)

日本人のすがたと暮らし

近代化における日本人のすがたと暮らしの実態をテーマ別に洞察した本です。大正ロマン、昭和レトロ、近代日本人の生態など、近代の着物ライフを知るのにもってこいです。近代日本のファッション歴史を学ぶ最初に読むべき本です。とりあげたテーマは245項目にわたります。1項目は約2頁で収められているので読みやすいです。

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