きもの文化と日本:一面的な束縛から多様な着物ライフへ

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経済学者の伊藤元重と着物小売業やまと代表取締役会長の矢嶋孝俊の対談。

昔の日本の生活に馴染んでいた点をふまえてキモノを着る物ととらえ、未来の着物のあり方を話し合っています。

服とは着る物だと改めて感じさせてくれました。

矢嶋さんが今後の着物ビジネスを話して、伊藤さんが文化経済的に後付けする流れ。

きもの文化と日本:一面的な束縛から多様な着物ライフへ

本書の特徴は古い呉服業界・着物業界にも言及している点です。

本書の特徴

近世・近代の着物の着用歴史も調べていて、着る物の歴史としても勉強になります。

かといって懐古的な着物論にならず、高価な値段や複雑な作法を強要してきた着物業界や呉服業界の古い体質を批判しています。

戦後日本では着物を新しくデザインしてふたたび普及させる動きが何度もありました。本書でも触れられた大塚末子のニュー・キモノ中森明菜「デザイア」のニュー・キモノなど。でも、一過性のヒートアップで終わるのが関の山でした。

それでも本書のお二人は、今後の着物文化の在り方が若者の着物受容しだいと話します。

なんでも若者に期待するオチかと思いましたが、着物でも何でも、斬新な服を着る年齢層は若者にかぎります。シニアは柔軟に対応できないからです。

ついで、今後の展望は、やや楽観的な感。

今後の展望

着物をとりまく歴史、文化、産業、経済、グローバル化と多岐にわたり着物の話が広がります。

とくに、20世紀の着物業界の歴史や着物文化の歴史を振り返り、現代の着物受容にも踏み込んで議論を展開しています。ですから躍動感をもって読むことができました。

着物は絹でないとダメとかポリエステルならダメとか、下駄や草履でないとダメとか、そういった古いルールを打破して、着物だけどカジュアルに着ること、もっといえば着物だからこそカジュアルに着ること。

呉服業界や着物業界による一面的な束縛から多様な着物ライフへの展望が縦横無尽に語られます。

ですから、今までの業界のように売りっぱなしよりもコーディネートを提唱したりレンタルで観光ツアーに組み込んだりのビジネス手法も注目されるとわかります。

こういうことも提唱されていて、最近の化合繊の利用にも肯定的な説を確認することができました。

感想

5年ほどまえに教えていた大学の授業でとりあげて、ああだこうだと深く読んだのが懐かしい思い出。

  • ベルベットのコートを羽織れば一層似合う
  • レース生地の着物装飾は意外に映える

など、素材を絹に限定してきた固定観念を打破することで、いろんな着物の姿を想像させてくれた本です。

表紙のこととか

ちなみに、本書の表紙を飾った着物は、DOUBLE MAISONのフレンチリバーレース(同社ページへ)。モデルはKanoco。

表表紙の着物を裏からみたのが裏表紙になっているのがおしゃれです。

残った疑問

今和次郎の調査の理解

1920年代の銀座で洋服率は低かったという今和次郎の一面的な調査が離しに出てきました。この調査は日本中で誤解されてきましたが、その域を出ませんでした。

着物をグローバル地平で考えないのか

《では洋服以外の伝統衣装の復活を着物だけで考えていいのか》という疑問は残りました。

衣服・服装を論じるときに陥りやすいのが《自分たちの先祖の衣装と洋服との対立》という枠組みです。

やや無い物ねだりですが、グローバル化に注目するならばこそ、この2世紀間にわたる洋服普及のもとへ置きなおして考えてほしいと思いました。

グローバル化における伝統衣装の変貌と産業経済との関わりから着物を捉えなおしてほしかったというべきか。

中国の旗袍、朝鮮のチョゴリ、ベトナムのアオザイなどもとりあげて、着物の洋服化と同じ経験をしてきた点から、少しでも触れてほしかったところです。

矢嶋孝敏・伊藤元重『きもの文化と日本』日本経済新聞出版社、2016年
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おすすめ本(読みごたえ重視ランキング)

日本人のすがたと暮らし

近代化における日本人のすがたと暮らしの実態をテーマ別に洞察した本です。大正ロマン、昭和レトロ、近代日本人の生態など、近代の着物ライフを知るのにもってこいです。近代日本のファッション歴史を学ぶ最初に読むべき本です。とりあげたテーマは245項目にわたります。1項目は約2頁で収められているので読みやすいです。

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