本書は戦前日本のポスターを集めたものです。
総ページ数は256頁。1頁あたり1点のポスターをカラーで紹介しています。著者もオールカラーのポスター集は日本初だろうと自負されています。
収録ポスターは著者のコレクション(上方コレクション?)のようです。
文庫本なので手軽に明治・大正・昭和のラベルを楽しめます。
気になるポスターのサイズですが、やはりバラバラだったようで180cmから10cmまで。そのぶん、タテ×ヨコの寸法をミリ単位でちゃんと書いてくれています。
日本のポスター:明治・大正・昭和
1997年に京都書院アーツコレクションのシリーズで刊行されていた『明治・大正・昭和:日本のポスター』を改訂・新装本で刊行したのがこのポスター集。
ポスターは上方文庫のコレクションを中心に編集。紫紅社文庫として刊行するにあたり、商品別にポスターを編集しなおしたそうです。
明治から昭和20年代までのポスターでは、着物、酒、薬の3品種が多いとのこと。たしかに私が今まで目にしたことのあるポスター類もこの3品種が多かったです。
厳密にいえば、酒と薬はそれ自体の宣伝ポスターですが、着物に関しては着物の宣伝だけでなく、着物を着た女性イラストを載せた他商品の宣伝も含まれます。
薬の延長と考えていいのか微妙ですが、広く衛生の点から化粧品・歯磨き粉なども一大ジャンルで、著者は「化粧品・歯磨・口腔剤」の項目も設けています。だいたいは、着物を着た女性か洋服を着た女性が描かれています。
この文庫の表紙は「クラブ堂ビル化粧品」と題されて163頁に収録されているものです。同化粧品ブランドは現在「クラブコスメチックス」。
同社は白粉(おしろい)だけでなく歯磨き粉も製造販売していました。
そちらもこんな具合で掲載されています。
著者のまえがきをみていますと、戦前期のポスターは廃棄されまくったので意外に収集が大変とのこと。
対比して書かれているのが欧米のポスター事情。
19世紀末から有名だったロートレック、シェレ、ミュシャたちの石版ポスターをはじめ、サーカスなどの分野のポスターも競争的にコレクションされ、ポスター美術館まで各地に作られたとのこと。
最近は日本の教育機関や美術館でもコレクションをはじめていて観光客誘致と結びつけてきましたから、大正ロマンや昭和モダンのブームは意外にポスターにあるのかも知れません。
コメントと補足
大正ロマンや昭和モダンを楽しむにはこの1冊と思いました。
著者がコレクションした種類は多岐にわたり、かなり楽しめると思います。
- 中国紙巻煙草:1925年、940ミリ×635ミリ(19頁)
- 中国紙巻煙草:760ミリ×557ミリ(20頁)
1点目のイラストレーターは鄭曼陀(チェン・マントゥオ)作のもの。民国期のカレンダー・ポスター界でかなり有名な人物。
2点目のポスターの作者は世亨(本名は金梅生)。
2点目の製作年は「大正」と書いてあるだけですが、2点目の女子たちが着ている旗袍は1点目の1925年(大正14年)とされる旗袍より後代のデザインですから「大正」は間違いで、正しくは「昭和初期」です。個人的な勘では1928年ころかと。
冒頭にふれたように、この文庫の総ページ数は約250頁で、1頁に1点のポスターをオールカラーで紹介しています。手軽に大正ロマンや昭和モダンのポスターを楽しめる点でおすすめします!
なお、2018年に青幻舎ビジュアル文庫シリーズから類書が出ました。京都工芸繊維大学美術工芸資料館が監修。
見比べてみると面白いです。
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